鉄梭(tetsu-sa)について

 

 

 日本には、江戸時代から実に多くの隠し武器が作られてきました。刀や槍、

薙刀などが合戦に使われるために作られたのに対して、隠し武器の多くは護身

用か、刀などの主武器の補助、捕物用に供されたものがほとんどで、特に握り

物と呼ばれる寸鉄や手の内棒のように主に掌サイズで作られた小型武器が多く

作られています。以前紹介した鉄拳も握り物の部類ですが、ここでは鉄拳の一

種である鉄梭を紹介することにしましょう。

 鉄梭は写真のように、小型の斧の柄を外したような形をしていますが、これ

はかの宮本武蔵が丸腰の時に常に懐中に忍ばせていたことでも有名です。武蔵

は還暦を過ぎた時に禅門に入り、春山和尚の教えを受けてゆくうちに、今まで

の他流試合に明け暮れた日々を「実にくだらないことをやってきた」と悟り、

それまで決して大小を手放さなかったのに、常に丸腰になったといわれていま

す。が、実際にはこの鉄梭を懐中にしていたということです。なぜでしょう

か?

 それは、武蔵ほどの人物になれば、老齢になったのをいいことに、倒して名

を挙げてやろうとする武芸者がかなりいたので、見苦しい死に様を晒すより

は、こうした隠し武器で難を逃れるべきという、武芸者の覚悟があったからで

しょう。

 それかあらぬか、この握り物の中には白刃捕の道具らしいものもいくつかあ

ります。たとえば南蛮鉄(Y字形の小型鉄棒)丁器(丁字形、またはイ字形の

小型棒)などがそうで、鉄梭も白刃捕を意図したと思われる構造になっていま

す。こう書くと、果たしてそんな掌サイズの武器で刀と戦えるわけがないじゃ

ないかと思われることでしょう。それはごもっともです。もちろん、これらの

握り物でチャンチャンバラバラが出来るわけではありません。そうではなく

て、丸腰であっても、これらの武器を肌身離さず携行することによって、一朝

有事の際には最低限度殺されずにすめばそれでいいわけで、危機管理のために

発案された道具だと思えばいいでしょう。

 ただ肝心なことは、これらの武器を敵に決して見せないことです。隠し武器

は敵に知られないからこそ隠し武器たりうるのですから。

 

 

 鉄梭は写真のように持つことで、手刀のように使うことが出来ます。この時

は剣のように刃筋をコントロールすることが大事です。そして、剣術や柔術の

体捌きに習熟していなければなりません。

 ただし、隠し武器の多くは現代では携行が違法になることが多いので念の

為。