青い目の刀工誕生――ポール・マーチンの小柄工房体験

 

 

 チャンネル桜の「週刊武道通信TV」に、先にゲスト出演いただいたポール・マーチン(PAUL MARTIN)さんの小柄工房体験を企画した。日本武道具さんのHPにある小柄工房である。

 作業工程はHPをご覧いただくとして、最終日の焼入れの日に、高野刀工の仕事場へお邪魔した。猛暑に焼きいれはきつい。マーチンさんの応援に駆けつけたといったところだ。

 大英博物館の日本部門に勤務し、日本刀の魅入られたロンドンっ子は、日本刀、武道を“研磨”するため来日。その功あって、ロスサンジェルスで日本刀展示会を開催し、英国バーミンガムの英国刀剣協会のセミナーも開講する“青い目”の日本刀研究家となった。

 一度、自分で日本刀の創作過程を体験してみたい、そう願うようになった。しかし、刀工資格がなければ無理である。「そうだ! 日本武道具店の<小柄工房>があった」と云うわけである。

 

 日本ノ夏ノ暑サニモ負ケズ、全工程を無事終了。“自筆”の「ポール マーチン」銘を刻んだ焼きあがったばかりの小柄を腰に指し、「僕はサムライだ!」と、嬉しそうな声で叫んだ。世界の<紳士>たちはサムライに憧れている。しかし、サムライの生地ニッポンではサムライは絶滅危惧種の一種である。

 

 戦国時代、士農工商、戦時でない現代において、何をもってサムライと呼ぶべきは難しい。他人様に判断してもらうしかないが、

自らがサムライたらんとする規範の一つに、「守り刀」を自らが<帯刀御免>することではないか。マーチンさんの、この喝采を聞き、この日、小輩の「規範の一つ」を納得したのであった。武州多摩から遠路来た甲斐があった(笑)。

 

 小生、この小柄工房の初期編で自ら焼き入れした「頴」と銘を刻んだ小柄を、外出、仕事時の鞄の奥に秘めている。有事に遭遇したら武器とするか自刃するか夢想してのことだ(笑)。

小柄は「刀剣」基準から外れる。ゆえに技術と鍛冶道具さえあれば作れる。刃渡り15センチ以下であるから<帯刀>しても銃刀法にも触れない。まあ、その筋の人か、テロ容疑者のリストに載っている者なら凶器準備で逮捕の対象になるであろうが。

 

 この日、持ち物は財布と携帯電話ぐらいしかなく、信玄袋一つであったので、野袴の腰に扇子と一緒に刀袋に入った小柄を指した。生憎か、幸運か、現行犯逮捕とはならなかった(笑)。

 

 冗談はさておき、サムライたらんと願う諸氏に小柄工房での小柄づくりをお勧めする。自ら銘を刻んだ「守り刀」を持たれよ。

 

 ポール・マーチンさんの小柄工房体験は9月10日の週刊武道通信TVで放映予定である。

 

 平成18年 葉月ノ二十三日