100年前の武術書、ネット本で「復刻本」

 

 その昔、大正、昭和初期の童話の復刻版セットを買った。30年前であるが20万円ぐらいした。当然、当時流行りのローンである。

 何度のかの引越しで、そのつど古本屋へ持っていこかとしたが止めた。

復刻版とは云え現代の名著とは異なる、えも云えぬ魔力があった。

 

 復刻版はどうしても製作費用が高くつき高価なものとなる。が、功成り名遂いだ輩には、若き日を彷彿する宝に値段はいとわない。版元はそれを承知である。だからその上、返本が少ないよう部数を絞り、その分価格に乗せる。ゆえに書籍の値段でなく嗜好品の値段となる。

 

 こんな前口上を述べたのも、復刻版は<老人趣味>のものであると皮肉を云いたかったわけである。

 しかし、慢性金欠病の若者にも読ませたい古書がある。いや、ただその古書を現代訳し手軽に印刷して、「さあ、どうぞ」と云うのではない。

 作られた、編まれた時代の空気、センス。版元、著者のこれで“天下をとってやる”という意気込みの息吹が感じられる原書を手にしてほしいのだ。

 大手出版は武術書などには手を出さない。ましてや復刻版など論外である。だが、明治、大正の文学書の復刻版を刊行するようになった。さぞ値段が張るだろうと思いきや、電子ブックでの刊行である。

 原書をスキャナで撮るだけでコストは安い。時代は移る。大手出版とて紙だけが本でなくなった。

 

 インターネットは“心をサムライにする”「志」のある者には大いなる武器である。古書をそのままネット本で送るならさらに安価になる。慢性金欠病の若者にはありがたい。

 弊社の「オンライン読本」は資本力のない出版社の“桶狭間の戦い”であった。軍学者・兵頭二十八さんの絶版となった書をネット本(オンライン本)で配信したのが始まりだった。

 

 この度、『兵法要務 武道圖解秘訣』をオンライン本で復刻した。

 明治23年に刊行された書で、題字は勝海舟(安房)、榊原健吉が「教並校閲」とあり、「まえがき」を書いている。(詳しくは武道通信HP掲示版、「オンライン読本」に)

 

 明治時代の武術書は漢字にふりがながかなりある。元平民にも読めるようにとの配慮であろうか。例えば《打太刀ハ左足ニ踏込(フミコミ)ナガラ遮(シャ)に構(カマ)へ仕太刀ハ左足ヲ》とか《全ク武用(ブヨウ)ニ供(キョウ)スルモノナラバ》とか根気良く読んでいけば若者でも意味はわかる。(  )内はルビ。

 

 武芸、武術は大方、口承であったが明治期、印刷技術が持ち込まれ、武芸書も刊行されるようになった。流派の秘伝のこだわりも無くなり、奥義の公開がなされたであろうが、なによりも「ラスト・サムライ」の息遣いが感じられる。

 

  平成十六年 師走之五日