振り棒について。

 

 

 さて、以前も少し触れましたが、ここで振り棒について再度書く事にしま

しょう。

 振り棒は別名を鍛錬棒とも言い、元来は剣術の補助鍛錬のために作られたも

ので、直心影流の榊原謙吉翁が発明したものが有名ですが、この振り棒鍛錬の

眼目は、手の内の練成、背筋や下肢の鍛錬による基本身勢の確立、呼吸法の練

成などで、剣術に必要な体を作ってゆくのですが、これは大東流で言う合気の

身勢と同じであり、そのために大東流の修行者にも、振り棒鍛錬を行っている

人をよく見かけます。今はなき佐川宗範や、武田時宗先代宗家が独特の振り棒

を製作し、日夜鍛錬をしていたことはよく知られていますが、久琢磨師範も振

り棒鍛錬を奨励していたらしく、その高弟であられる大神謙吉師範の道場に

は、漁船の部品を改造した振り棒がありました。

 

 

 このように振り棒鍛錬は健康法としても効果絶大なのですが、その難点はあ

まりにも長いので、振るには天井の高い場所が必要なことです。そうかと言っ

て、誰もがいつでも剣道場のような施設に行く暇があるわけでもなく、施設自

体が近所にないこともありましょう。しかし最近はこの点を考慮した、短い振

り棒も製作されているので、これらの難点も解消されることでしょう。

 

 

 ちなみに、振り棒鍛練の方法を少し書く事にしましょう。

 

1、まず振り棒を両手で握り、床に垂直に立ち、振り棒を背中にピッタリと着

け、両手を真上に伸ばし、踵を浮かし、背伸びをするような姿勢になる。この

時は口を「あ」と発音する形に開き、思い切り息を吸い込む。

 

2、その姿勢のまま、一時息を止める。

 

3、鼻からゆっくりを息を吐き、それと共に振り棒を下に降ろし(前に出して

はいけない)、柄頭が丹田に来るところで止める。この時息は全部吐き出さ

ず、肺に三分の一くらい息を残すこと。振り棒を降ろす時はわずかに上半身を

波打たせ、柄頭が丹田にくる時はわずかに腰を前に出す。姿勢は最後まで直立

を保ち、前傾にならないようにする。

 この振り方で、重要なのは腕で振るのではなく、足、腰、背筋で振る感覚を

身に付けること、そして呼吸と動作を一致させることです。

 

 この他、2kgくらいまでの振り棒なら、先端の太い部分を握って振る方法

や、片手で8の字に振る方法などがあります。振り棒は最初は1.2kgくらい

のものから始めて、慣れるに従って重くしてゆくのがいいでしょう。

 

(古武術研究家 吉峯 康雄)